
翌朝は見事な快晴!
東の空がしらじらと青白くなり、鳥のさえずりが聞こえだす頃目が覚めました。
エルはすでに周囲の散策に出かけて不在。私は体育館では1週間しか使わなかったバッシュを履いて外に出るとあまりの清々しさに心を洗われました。『エル!』と大きな声で呼ぶと奴は矢のように駆けて来ました。犬というのは自由にするとこんなにも生き生きとするものなのか、とその時初めて知りました。朝食も食べずにそそくさとテント(もどき)を片付けると、下山をはじめました。クマ笹生い茂る尾根筋を朝日を浴びながら進む登山道。 遠足で何度も通った道なのにとても輝いているように思えたのはきっとドキドキしていたからでしょう。早朝の朝日に照らされたクマササの道をエルと走って進みました。そして、チャリンコで家に帰るとそこには普段の高校生活が待っていました。しかし、昨日までとは明らかに違う自分がいるのがハッキリと分かる。『また、今度はエルとどこに行こうか?』という希望と『ちゃんとした装備を買うためにバイト(当然学校にはナイショで)をしよう』と決意。幸い春休み前で時間もありました。部活の帰りに、ゴルフの打ちっぱなしや飲食店などを回るのですがどこも門前払いを受けました。そこで最後に鉄工所の門を開け、社長にお願いしたところ「イイゼ!」とOKをもらったのです。その日のその場で採用!働き始めました。」私の高校2年の春休みは午前中は部活、午後からは鉄工場で金属の部品に穴を開けるアルバイト。頭に手拭いを巻いて、毎日油まみれになりドリルでただひたすら穴を開ける・・・。『毎日、毎日ボクラは鉄板の上に穴あけイヤになっちゃうよ〜』と泳げタイヤキ君の変え歌を歌いながら、おじさん、おばさんに混じって。でも、2週間後には自分で初めて稼いだお金を手にしたのでした。その足で『サンスポーツ』に行きおっちゃんにテントと寝袋とキャンピングガスと・・・・注文。 当時は今のようにアウトドアショップなどない時代でした。注文した商品の載っているカタログを毎日穴があくほどながめました。

そして、ついに迎えたゴールデンウィーク。手にした真新しい道具と再びエルと大倉岳に行きました。説明書を読みながら初めて建てたドーム型のテントは当時では最先端のフォームでしたし、EPIガスのキャンピングストーブは一発で着火し、あっという間に1リットルのお湯が沸きました。夜寝袋に入るととても温かですぐに夢心地に。でもせっかく買ったヘッドランプを使いたくて眠い目をこすりながら上村直己の自伝を読みました。そばにエルがいてスヤスヤと寝息をたてる。聞こえるのはその音だけ。夜というのはこんなにも静かなんだなあ〜と初めて思いました。
このときから、私は犬とキャンプ道具をもって山に出かけるということにはまりました。

首輪から鎖を放し、私は家から離れ一人になることで2人とも自由を得る。しかし、時間がたてば腹も減るし、新しいことを行えば不安感もある。そんなときは自分で考えて、手を動かし乗り越える。そんなことが日常にあまりにも少ない様な気がします。犬が一緒にいることでとても勇気づけられるし、気持ちが明るくなる、それに暖かい。体のぬくもりと目が合った時の安心感がたまらなく好きですね。

写真の裏の当時のメモ
さて、次はどこに・・・・。 実はとってもバカなことをやったんですわ。