
1986年の夏、高校2年生の私と愛犬『エル』との山での生活が始まりました。
父と二人で行ったのは、テントを張るスペースを作るところまで。後は自分一人で考えて作業しました。小川の上に板を張ったその上にテントを張り、その上に雨除けのシートを設置。砂利スペースに拾ってきた石で煮炊き用のカマドを作成。小川には食器を洗うための流しを作りました。それらの作業の一つ一つに工夫が必要で、なんとか上手く作れた時の喜びは既製品で事を済ますことの多い現代では感じることのない喜びでした。

エルは全くの自由。どうせならと首輪まで外しました。当然わたしもスッポンポン(これはウソ)。
周囲360度を緑に包まれ、怖いどころかメチャクチャワクワクしました。
昼に部活から自転車で帰った後、急いで昼食を食べ、その晩と翌朝の食材をリュックに詰め込んで出発!。集落のはずれから川沿いの林道

を約30分入り、さらに林道から50Mくらい離れた所にキャンプ地はありました。
汗びっしょりになって到着すると荷物を投げ捨て、渇いた喉をきれいな小川の水でうるおす。一休みしたら薪拾いや薪割り、食事の準備や毎日のように釣りをしました。あたりが薄暗くなり、聞こえるのはパチパチと燃えるカマドの薪がはじける音と、ときどき聞こえるトラツグミの声く

らいです。大倉岳の山頂のようにここは開けていない森の中なので、暗闇はとことん暗く、夜空がこんなにも明るいものだということをその時初めて知りました。
おばけなんかちっとも怖くありません。ただ、もしかしたらクマが出てきたら・・・・という怖さはありました。事実、エルはときどき闇に向かってけたたましく吠えることがありました。そんなことが何回かあったとき、ふと「もしクマなんか近づいてもエルが教えてくれる」と気付きました。そのとたんになんかあんまり怖くなくなりました。エルは山ではけっこう頼りがいのある奴になっていたわけです。以前にも書きましたが、山にいるときは私とエルはお互いに頼りあっていました。その関係は「リーダーと服従犬」とはちょっと違います。もちろん当時はそんなしつけの教科書に書かれているような事は意識になかったので、2人はとても自然な関係だったのです。
夜は比較的早く寝ました。明かりはグリーンスタンプを一生懸命集めて手に入れた灯油のランプだけ。その明りの下で上村直己の本を読みふけ、いつの間にか深い眠りに・・・。毎日テントの中で小川から吹き抜ける涼しい風にふかれ、とても気持ちよく眠りました。
毎晩、もちろんエルと一緒に。