
8月下旬、テント生活も終盤を迎えます。その頃には随分と炊事の腕は上がっていました。毎日欠かさず焚火でホカホカのご飯を炊き、包丁で食材を切り調理します。朝食はいつもご飯とみそ汁、ベーコンエッグに野菜。特に野菜は冷たい沢水で冷やして最高にうまかった!。
私は包丁を使うことが得意でした。ここで培った経験はその後の大学生活で大いに役立ちました。冬にスキー場の旅館でバイトしていた時も。旅館では朝夕の2食をバイトが作るのですが、私はいつも切りもの担当でした。切りもの担当は旅館のママさんの指示どおりに肉や野菜などの食材をとにかく切っていきます。最も得意だったのはキャベツの千切りで、いつもキャベツを丸ごとから細かい千切りを作っていました。5個も作ればボール何杯にもなり、作りあがったときは爽快。よくバイト仲間とキャベツの千切り競争をやりました。
8月の最終週に学校では補習が開かれました。任意の参加だったのでもちろん私は不参加です。しかし、ある日登校日ということで学校に行くと、担任のM先生から、「補習に来なかった生徒の家に家庭訪問する!」と言われたのです。もちろん私の家にも来るとのこと。私はその時ずっと山にいたので先生にそう言うと、先生はテント場に来るというのです。そして家庭訪問の当日、私はもてなしの気持ちを込めてカレーライスを作りました。焚火でコトコトと材料を煮てバーモンドカレーで仕上げる。その隣ではシューシューと飯盒が熱い湯気を吹いていました。午後5時ごろ、林道に1台の車がやって来ました。先生は「ホイ」といって紙袋を渡しました。開けると中には冷えた梅ゼリーが。「先生、お土産持って家庭訪問にまわっているんですか?」と聞くと、「だら、お前んとこだけやわいや」と笑って言われました。どうやら、何もないと思っていたようです。私は手作りカレーと野菜サラダをご馳走し、二人と一匹で焚火の火をながめ、沢の音を聞きながら先生と談笑しました。先生は山岳部出身でテント生活はおてのものとのことでした。その他何を話したか、細かいことは覚えていません。覚えているのは次のやり取りです。「お前、進路は?」 「獣医大に行きます。」 「ほな、浪人やな」。
この家庭訪問の数日後、私は山から引き揚げました。一つのことをやり遂げたという充実感と明日から再び始まる学校生活に、というより「さて、次は何をしようかな〜」という期待を胸に。