コナンはやがて離乳期に差し掛かりました。
野外ではノイチゴなど夏の果実を食べるころ、私とS先輩はコナンを野生に返すべく訓練を開始しました。二人でなるべく時間を作っては山に行き、自然にふれさせ、時には野生の植物を食べて見せ、コナンを野生に順応させる作業の連続。しかし、コナンは生後まだ6カ月。本来ならまだ母親と一緒にいながらときどき他の同世代の子ザルと遊ぶ時期です。そこで、私たちはいちかばちか、コナンをももといた群れに帰してみることにしました。それにはまずサルの群れを発見する必要があります。私たちはトランシーバーを持っていつものように山に入り連絡を取り合い、群れを発見。夕方まで追跡し、泊まり場を確認してテント場に戻りました。そして、いよいよ明日、コナンを群れが通ると予測した場所に置いてみます。前夜はさすがに複雑な気持ちでした。目が開いたばかりのころから全精力をかけて育てたコナンと別れる寂しさと、無事群れにもどれるかという不安、さらにそれを確かめることのできない現状に震え、寝不足のまま朝を迎えました。私たちはまだサルたちが動き出す前に群れの近くに行き、移動ルート上にコナンを置き、サッといなくなり、様子を伺いました。コナンはいつものように「ひょー、ひょー」と私を呼びます。するとその声に反応したのか、コナンの方に向かって明らかにサルの群れが接近。そして数分後、コナンの「キャキャキャキャキャ・・・・」という叫びにも似た声が谷にこだましました。しばらくして、あたりにサルの気配がなくなってからコナンを置いた場所に行ってみると、もうそこにはコナンの姿はありませんでした。あたりはシーンとしています。本当に群れに戻ったんだろうか?という不安が心を支配し何とも言えない気分でした。
ノイチゴを食べるコナン
