数日前からしょっちゅう吐くという猫が来院。
胃腸薬を服用しても回復せず、食欲、元気が無くなってきたのです。
犬でも猫でも、一日に5回以上の嘔吐が見られる場合は何らかの異常がある可能性があります。動物の年齢が若かったり、種類によっては異物誤食が疑われるのですが、普段からゴムひもなどをオモチャして噛んだり、遊んだりしない場合は、別の要因を疑います。
具体的には、肝臓や腎臓、すい臓の異常、おなかの中の腫瘍、胃腸に腫瘍がある、胃腸炎があるなどです。
肝臓などの内臓の異常は血液検査で予想がつきます、おなかの中や胃腸の腫瘍は触診やレントゲンで分かる場合があります。軽症の胃腸炎ならば数日間の胃腸薬服用でたいがい治るはず。
しかし、これらの検査のほとんどで異常が認められず、症状が改善しない場合は内視鏡検査が役立ちます。内視鏡の最も優れたところはお腹を開けなくても胃腸内の様子を直に見たり、特殊な器具を使って胃腸の一部を切り取って調べることができるところです。
下の写真は右から、胃、十二指腸、小腸の内部を内視鏡で撮ったものです。



胃が『つるつる』した感じに対し、十二指腸と小腸は緑色です。
これは十二指腸内に胆嚢から排出された胆汁液が過剰に分泌され、小腸に流れずに溜まってしまっていることを示します。
幸い、腫瘍や潰瘍はありませんでした。そのまま、細胞検査用のカンシを使用して胃と十二指腸、小腸の一部を取って病理検査センターに送りました。
結果は『リンパ球-形質細胞性胃腸炎』。
これは自己免疫疾患の一つともいえ、免疫にかかわるリンパ球や形質細胞、好酸球(白血球の一種)などの胃炎性細胞が、腸管の粘膜固有層にまで浸潤。腸粘膜を傷め、腸管が肥厚したり、潰瘍を起こしたりして、嘔吐や下痢が慢性化し、衰弱していくという病気です。
末期的には、腸粘膜からのタンパク喪失が激しくなり、重度の低タンパク血症を起こして腹水が溜まってくることもあるので早期の手当てが必須です。
その要因は、遺伝性、食物アレルギー、細菌感染などの複合的なものと考えられているので、先ずはステロイド剤で症状を治めてから、アレルギー食や抗生剤、抗菌剤の内服などを行い、その子に合った治療をすすめます。
今回の場合は、ステロイド剤が効果的で、服用後は日に日に状態が改善し、退院できるまでになりました。