ゴールデンレトリバーのお腹の中に腫瘍がある?。
立った姿勢での触診では分からず、飼い主さんの言うとおり横向きにして注意深く探すと、おなかの中央辺りにピンポン玉くらいの腫瘍を触知しました。しかも、前後左右によく動く。レントゲンでもエコー検査でもはっきりと腫瘍が捕らえられ、脾臓に腫瘍ができたものと思われました。飼い主さんと相談して細い針を刺して腫瘍の細胞をとり検査することに。しかし、細胞検査では診断がハッキリ得られませんでした。脾臓の腫瘍で多いのは『血管肉腫』や『悪性リンパ腫』などの悪性腫瘍です。顎や脇、膝裏、内股のリンパ節の明らかな腫れや細胞診、血液標本で異形リンパ球が認められていないことから、血管肉腫が最も疑われました。ゴールデンレトリバーで12歳は極めて高齢です。麻酔をはじめ、手術が引き起こす腫瘍以外の合併症の心配もたくさんある中、私たち病院スタッフと飼い主さんは何度も話し合いを行いました。その結果、この子が元気なうちに手術することに決定。慎重に麻酔を行い、おなかを切り、注意深く腹腔内を探ると目標としていた腫瘍がやはり脾臓にありました。脾臓に腫瘍ができた場合はその部分を取り除くのではなく、秘蔵そのものを摘出します。脾臓には周りの組織から無数の血管が出入りしていますので、その一つ一つを糸で結んで血が出ないようにして切除します。ただ、当院の場合は特殊な機械を使って結さつと切除を同時に行いますので脾臓切除にかかる時間は3分です。
切除後は注意深く他の臓器に転移がないか確認します。幸い、この子の場合は転移は認められませんでした。
病気の早期発見を願い、年に1回から2回の健康診断を行う患者さんが増えています。また、トリミングを定期的に行いその時に病気が発見されることもあります。トリミングの帰り際の何気ない会話で『ちょっと待って!もしかしたら・・・』といった具合に病気が発見されることもあります。
しかし、今回の場合この子の命を救ったのは、他でもなく飼い主さん自身です。30kgを超す巨体のしかもおなかの中央に位置する臓器にあるわずか4cm大の腫瘍を見つけたのには脱帽します。
体を横にして毎日なでていたのでしょう。毎日のように体を触ることの重要性を再認識しました。
誰でも愛する犬を失いたくありません。ですから、最近の獣医学の発展はすざましいです。ほとんどの病院はハイテク機械であふれ、設備は人間の病院並です。しかし、ハイテクによるスポット的な検査は、飼い主さんによる毎日の日常的な診察(見て、聞いて、触って)という下地があってこそ有効になるのです。